ぽんさんリクエスト

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通学で利用してる電車で、いつも何処かから視線を感じる。車両を変えてみたり、できる範囲で乗る時間を変えてみても、少ししたら視線は復活してしまう。自意識過剰なんじゃないかって自分でも思うけど、やっぱり感じる視線は何処か不気味で、酷く居心地の悪いものだった。

その日は珍しく、電車でも眠くならなかった。俺は今あるソーシャルゲームにはまっていて、ついつい夜更かしをしてしまうせいか、通学時には寝てしまう。まぁ、最近は視線が気になって目を閉じても寝れずに電車を降りてしまうのだが。
すっきりした気持ちはなんとなく新鮮で、俺は思わず車内をキョロキョロと見渡した。…もしかしたら、視線の正体がわかったりするかも。なんてな、とそんなバカなことを考えていたら、一人だけ、かちりと視線が交わった。
(うわぁ、イケメンだ)
さらさらした少し長い黒髪のその人は、俺と目があったのにも関わらず、目をそらしたりしなかった。俺も何故か目をそらすことができなくて、ごくりと唾を飲む。

次は○△駅〜○△駅〜

自分の降りる駅だ、と俺はその人から目を離し、電車から降りた。
ふぅ、と息をつく。
格好いい人だったけど、なんか。



「不気味だったなぁ」




学校も終わって、特に予定もない俺は家に帰るために電車へ乗り込んだ。思わず今朝のことを思い出すが、頭を振って忘れるように努めた。そんなことをしていると、あの感覚が俺の体を支配した。
ぞくり。
いつもの、あの視線だ。
じっとりとなめるようなそれに、自然と滲む汗に俺は気分が悪くなる。俺は思わずため息をつき、うつ向いた。早く、最寄りの駅につけと願いながら。

電車がやっと最寄りの駅につき、俺は安堵の息を漏らしながら電車を降りた。改札をぬけて、外の空気を大きく吸う。あの視線から逃れることができて、俺は安心しきっていた。
軽快に歩みを進めていき、自宅周辺の住宅街に入り込んだ。ここはいつも静かで、人通りも少ないからか、いつもどこか寂しい処だ。
かつかつかつ、ここに来て初めて後ろの足音が気になった。俺の歩幅に会わせているのか、足音のスピードが全く一生だ。俺が早足にすれば、後ろの人も早くなる。
なんだか気持ち悪い。
俺はほとんど走ってるようなスピードで歩いた。すると、案の定後ろも早くなり、むしろ、俺よりも早いスピードの足音が響いた。
これはもしかして、距離を詰められているんじゃないか?
言い知れぬ恐怖を感じ、俺は到頭走り出す。しかし、その足はすぐに止まってしまった。
がしり、としっかり掴まれた腕。
急速に血の気は引いていき、俺は半ばパニックに陥った。



「やっ……!!!離し、」

「おい、!」



俺が声をあげると、腕を掴んでいた人物がそれを遮って声をあげた。俺ははっとしながらその人を見て、ビックリした。
だって、近所にすんでる長浜さんだったからだ。

長浜さんは、俺の家の近くで暮らしてる大学生のお兄さんだ。長浜さんの実家も近所で、昔からよく遊んでもらっていたのだ。

なにやら困った表情の長浜さんは、俺から手を離すと何かを差し出してきた。「どうしたんだよ、いきなり走ったりして。これ、落としてた」渡してきたそれは、俺のハンカチだった。いつの間に落としたのだろうと考えると同時に、長浜さんを変質者か何かだと思ってしまった、と俺は途端恥ずかしくなった。
ぺこぺこと頭を下げながらハンカチを受けとる。長浜さんは呆れたように笑いながら俺の頭を撫でた。



「まったく、気をつ」



不自然に言葉は途切れ、長浜さんの体が俺の方に倒れてくる。何事かと、声をあげる暇もなく、俺も道路に倒れこんだ。そのまま、意識は白く濁って、溶けてしまった。


意識が戻って、最初に感じたのは頭の痛みだったが、それよりも気になることがたくさん頭に浮かんできて俺は勢いよく上体を起こした。
ここはどこだろう。長浜さんはどうしたんだろう。
色々なことが浮かんでは消えて、俺の思考が行き着いた先は"逃げなきゃ"だった。
俺は立ち上がって、辺りを見渡す。広い部屋に、大きなベッドが一つ。俺はどうやらこのベッドの上で寝ていたらしい。ご丁寧にブレザーは脱がされていて、俺はそれを慌てて羽織り、一つだけある扉に近づいてノブに手をかけた。
ガチャリ、と望んでいた音と共に扉は開いて、



「どこに行くの?」



長い廊下の少し先に、今朝のイケメンさんが立っていた。表情はまるでなくて、何を考えているのかさっぱりわからない。
「ここからは出れないよ」
そう言いながら、一歩、こちらに歩み寄ってくる。俺も反射的に一歩下がる。
「ううん、出さない、が正解かな?」
彼はにっこり綺麗に微笑んで見せる。
「君が僕以外の誰かのものになるなんて」
バタン。
「凄くおかしなことだよね?」
扉は軽い音で閉じられたというのに、俺はその扉を開けることができないことを悟っていた。



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やんでれって難しい!長浜さんの安否はどうなったのか書けなくて残念ですが多分死んでないでしょう……。
ぽんさん、企画参加ありがとうございました!




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